日本内部統制研究学会 会長 川北 博


所信表明(於 2007年12月8日創立総会)

 経済のグローバル化が一層進展する現在におきましては、我が国証券資本市場におけるディスクロージャー制度の透明性・信頼性を確保することにより、政府が掲げる「貯蓄から投資」への一層のシフトを促すことは、21世紀における我が国経済の持続的発展あるいは成長のために不可欠の課題であると考えられます。
 しかしながら、有価証券報告書における不実開示問題を始めとして、わが国を代表する知名度の高い企業およびその経営者による不祥事が相次いで発覚するなど、我が国のディスクロージャー制度に対する国民の期待は大きく揺らいでおります。
 このような状況を払拭するため、我が国におきましてもディスクロージャー制度の信頼性を向上させる目的で、「財務報告に係る内部統制の重要性」が認識され、金融商品取引法の下での制度導入がなされたものと理解しております。
 2006年5月施行の会社法におきましても、内部統制の確立が明示的に求められることになりました。このように、法制度面での大枠の整備が並行して進められる中、本年2月15日には、金融庁企業会計審議会より、所謂「内部統制基準」が公表されております。この内部統制基準に則って、2008年4月1日以後開始する事業年度より、上場会社には内部統制報告制度が適用されることになっているわけです。
 ところで、我が国のみならず、主要先進国における内部統制の整備・運用に大きな影響を及ぼしてきた、実質的デファクトスタンダードは、米国で1992年および1994年に公表された「内部統制の統合的枠組み」、いわゆる「COSO報告書」であることは周知のことと思います。COSOは「内部統制の統合的枠組み」をはじめとして、その後今日に至るまで様々な権威ある報告書を出してきております。
 米国の「内部統制報告制度」は、このCOSOに象徴される「産・学・士」による議論の積み重ねが制度化の土壌にあったわけです。実際2002年に米国で制定された「SOX法」で初めて導入されることになる「内部統制報告制度の設計」においても、またその後の見直しの議論においても、COSOは、常に先導的・主導的役割を果たしてきております。
 翻って、我が国においても近年、内部統制議論は大きな高まりを見せてはいるものの、その多くは制度対応のための議論であると理解しております。米国がSOX法制定以前から、民間レベルでの内部統制の議論を積み重ねてきた状況とは明らかに異なっております。
 では制度導入目前の我が国の現在の状況はと申しますと、国際的にも評価の高い制度が採られたにもかかわらず、多くの関係者の理解不足が故、およそ本来の趣旨とは異なる、誤った理解に基づいた対応をとっている企業もあるように見受けられます。法制化が先行してしまったこともありますが、より実効性のある、生きた制度にするためには、「産・学・士」が連携する形での議論の積み重ねや、研究ないし啓蒙活動の場が必要であると考えております。
 ところがこれまでのところ、「産・学・士」の関係者が一堂に会して、横断的な視点から内部統制をめぐる様々な問題を議論するような機会や交流の場はなかったわけです。たしかにここ最近では、内部統制を議論する研究会などが数多く設立されているようでありますが、それらの実状を見ますと、特定の企業や組織の利害のために立ち上げられた研究会であるように見受けられます。
 今般、設立がなりました「日本内部統制研究学会」は、特定の企業や組織の利害のためではなく、非営利かつ独立の立場での活動を行うことに重要な意義があります。それは、他に類を見ない「産・学・士」のメンバーからなる我が国の英知を結集することで、内部統制に係る様々な分野におけるオピニオンリーダーとしての役割を担うことができるものと確信しております。
 今後、私ども学会は、内部統制の重要性を啓蒙し、その枠組みの普及を推進すること。そして、我が国企業ないしはあらゆる事業体のおかれた状況において最も適合する内部統制の整備・運用方法を検討していくことが使命と考えております。こうした地道な学会活動などを通じて企業不祥事を未然に防止ないし抑止し、かつ、信頼しうる活動を推進するための施策を打ち出していくことにより、我が国経済社会の持続的発展に貢献していく所存でございます。
何卒関係者各位のご協力、そしてご支援を頂戴いたしたく存じます。